東京高等裁判所 昭和28年(う)1498号 判決
被告人 成沢操
〔抄 録〕
論旨第一点に対して。
原判決挙示の証拠によれば原判示事実を認めることができる。原判決は被告人においてK子が一八才未満であることを知り乍ら同女を女給として雇入れ不特定の客を相手に売淫させたことは認定していないのであつて、ただ同女が児童であることを知らなかつたことについて過失がないものとはいい得ないとするのである。所論はこの点について被告人に過失がなかつた旨主張するので案ずるに、児童福祉法は国及び国民は児童を心身ともに健やかに育成するように努めなければならない旨を明かにし、此の目的の為に児童に淫行させる行為を厳に禁止しその違反者に対しては刑罰をもつて臨むことを規定しているのであるから、婦女を雇入れ不特定の客を相手に売淫させる者はその婦女が満一八才に達し児童でないことを確めるについて相当の注意手段をつくさねばならないことは当然である。原判決に掲げる証拠を綜合すれば、被告人は原判示K子を雇入れ売淫させるに際し異動に関する必要書類を懲するとか、親元照会乃至は本籍照会をすることすらもしていないことを認めることができるが、右の場合雇入れんとする年少婦女の年令調査について右程度の方法をとることは前記法律の趣旨に照して、まさに雇主の為すべき最少限度の義務といわなければならない。原審第四回公判調書中証人子Kの証言部分によれば同人が被告人方に雇われるに際し昭和九年四月一〇日生であつて満一八才未満(一六才一一月)であることを明かにしたところ「年令が足らないと警察でうるさいからかくれてやれ、年令を聞かれたら二二才位に言え」といわれた旨の記載があるが、仮に所論の様にK子が自己の年令を詐り満一八才以上であると自称したとしても、他に確証がない限りは異動証明、親元照会本籍照会等の方法によりその年令を調査して児童でないことを確めなければならないと解するのが相当である。従つて被告人は原判示の様にK子を雇入れる際その年令調査について雇主として相当な注意を払つていないものと言わなければならない。記録を精査し所論の諸点を斟酌しても未だ被告人に過失なしと言うことを得ない。原判決には所論の様な事実誤認は存しない。論旨は理由がない。
註 原判決の認定した事実は、
被告人は東京都足立区千住柳町七番地でカフエー業を営んでいるものであるが昭和二十六年三月十二、三日頃から同年五月末頃までの間右の店舖で女給として雇入れた満十八才に満たなかつた小室三十子(昭和九年四月十日生)をして殆ど毎晩不特定の客を相手に売淫させ以つて児童に淫行をさせたものである。